2002 12/7(土)
 中学3年の時のクラスが嫌いだった。

 3年5組。

 4月のクラス替えで、愕然とした。仲の良い人が、ひとりもいなかったから。
 教室に入ったら、みんなもう、グループができてるみたいだった。
 茶髪とかにしてルーズソックスを履いて、派手なカンジの子達の7人くらいのグループと、バスケ部の仲間達の7人くらいのグループと、その他に3人グループがふたつ。
 こっちから話しかけても、仲間に入れなくて、あたしは、仲間に入るのをやめた。
 毎日、休み時間になると、ひとりで机に向かってノートの切れ端に手紙とか書いて、2組にいる友達に持ってってた。
 なぜか3年5組だけは3階。3年1組から4組は2階の教室だった。あたしはいつも、悲痛な顔をして3階から2階に降りてた。2組の担任のM下先生はそれを知っていた。そしてあたしも、それを解っていた。だからわざと、あたしは泣きそうな顔をして2階に降りることにしていた。

 担任のH野先生は、メシは黙って食うモノだという先生で、ほかのクラスはみんな、机の向きを変えて給食を食べていたけど、うちの5組だけは、授業中と同じような形のまま静かに食べてた。むしろ話すと、「黙って食べろ」と言われる。
 だから少し救われた。

 中学2年の時は、向きを変えて給食を食べてる途中、向かい合った男の子に話しかけたが、シカトされた。その向こうにいる友達が気づいて、「なに?」と言ったので、「なんでもない」とごまかしたら、シカトした男の子が「ムシされたからごまかしてやんの」と、隣の子とボソボソ笑っていた。
 そんなこともあって、向きを変えて給食を食べるのはイヤだったから。

 そういえばその男の子達は、私の方に配られたプリントが落ちると、「バカそっちに落とすなよ」とか言っていた。そんなこともあって、私は嫌われているんだなぁと、何となく感じていた。


 3年5組は、合唱祭の曲決めでは、練習したくないからって授業でやっている曲を選ぶようなやる気のないクラスだった。


 体育の時間、女子と男子は別々だったのだが、女子の方はフォークダンスをやっていた。
2列になってくるくる相手が変わっていくダンスで、それまで、ニコニコ笑って冗談とかいいながらフォークダンスをしていた人も、私と組む瞬間になると、凍りついたような顔になって、拒否のオーラを出した。
そんなにイヤならいいですよ、と思って、あたしはつなぐ筈の手をつながないで踊っていた。


 修学旅行で京都に行く時、班分けをして、3人から4人のグループになって行動することになっていたけど、あたしは、どこのグループにも入れなかった。それにどこにも入りたくなかった。でも個別で行動するわけにも行かなくて、結局ひとつの3人のグループに入れてもらうことになった。
 夜はホテルで3人部屋で、違う班分けになって、ほかの仲良しの2人と同じ部屋になった。
 普通に、寝て、朝起きたら、2人が私のことを笑っていた。
 「ねえ、ブーヨンのこと好きでしょ?」
 ブーヨンというのは、クラスに、ものすごぉく太っているK林くんという男の子がいて、女の子はみんなその子のことを「ブーヨン」と陰で呼んで嫌っていた。
 でもあたしは、小学校の時から同じクラスだったし、ブーヨンとは絶対呼ばないぞって心に決めていた。自分が嫌われているから、人のことを嫌ったり悪口を言うのはすごくいやだった。

 でも、2人が言うには、あたしは寝ている時に、ブーヨンって寝言を言って寝返りをうったという。寝ている時のことだから、本当に言ったのかどうかはわからないけど。それでまた、なんか話づらくなった。


 水泳大会の時、あたしは小さい頃から水泳だけは得意で、リレーのアンカーをやって、4組の水泳部のMちゃんをぐんぐん引き離して1位になった。
 でも、頑張ったのでちょっと疲れて、プールサイドの5組の場所に戻って、うずくまってタオルにくるまっていたら、クラスの女の子が、私がいるのに気づかずに話していた。
 「今、すごかったねー」
 「ほんとだねー、今までのこと全部忘れて応援したよねー」

 ・・・今までのことって、いったい何だろう。

 5組にいる時だけだった。こんなにイヤな気持ちになったり、みんなから避けられているような妙な気持ちになるのは。2組に遊びに行ったり、塾に行ったら、こんなことなかった。
 俗に言うイジメとか、そんなたいしたものじゃないけど、すごく孤独で暗い気分になってた。

 そんなある日・・・もう受験もせまって、秋頃だったと思う。
 塾で、お腹が痛くてたまらなくて、おならをしてしまった。
 さいわい、音はしなかったんだけど・・・
 それをきっかけに、椅子に座って、誰かが後ろにいると思うと、おならが出るようになってしまった。
 学校の授業中でも、気になってしまって、ずうっと、ずうっとお腹を緊張させていた。でも・・・4時間目くらいになると、耐えられなくなって、ガスがもれてしまうことがあった。そのたびに、後ろの席の人達は、クスクス笑って、机とイスをがーっと後ろにさげるようになった。
 塾でも、みんなクスクス笑って、窓をあけたりするようになった。

 つらくて、休み時間にはトイレにこもるようになった。
 トイレで、何もでなくなっても頑張っていると、クラスの子達の声が聞こえる。
 「ずっと閉じてるドアがあるよ、やだー」
 「**さんでしょ」
あたしのことだった。
 いつも遊びに行ってた2組の友達の隣の席は、塾で後ろの席の男の子で、なんだか2組にも行きづらくなってしまった。
 すごくつらかった。
 最近、その症状は過敏性腸症候群(IBS)っていう精神的な病気なのだとわかって、ホームページに載せたら、たくさん同じような悩みの人がいることがわかった。

 あたしは、結局、1組と3組の友達に手紙を書いて、すべてを明かした。
 そしたら、3組の友達も、転入生で、なかなか友達ができなくて悩んでいるって、手紙をくれた。
 その子は顔がかわいくて男の子からもよく告白されたりしてたし、いつも誰か友達と一緒にいるようにあたしからは見えてたから、意外だった。
 でも、誰でも、少なからず、そんな悩みって持っているんだなって思った。



 自分の悩みがあまりにも人に比べて重いような気がしてたから、不公平だって思ったこともあったけど、あたしは絶対、周りの人がしたようなことはしないんだって、心に決めた。
 
 自分を変えたかった。
 高校生になった。いつでも明るくいられるように、「バカになろう」と思った。
 ガスが出そうになったら、「おならでるー!」と宣言した。おどけてみたり、くだらないことを言ったり、バカって思われた方がいいって思った。
 中学生まで、マジメ一本のイメージだったあたし。
 茶髪にした。ピアスをあけた。それまでは絶対読まなかったけど、みんなが読むような雑誌を読んだりした。みんなが着るような服を着てみた。

 よくわからないけど、じたばたしているうちに・・・
 いつのまにか、IBSは治ってた。
 あたしは、自分に克ったんだと思ってる。



 でも、卒業アルバムを開けば、3年5組の写真がある。
 あたしの後ろの席は大幅に空いている。
 もし3年5組の同窓会があっても、絶対行けないと思う。